女遊び

「客がみんなマーデン君みたいな子だったら良いのに。また指名してね?」

 兄貴の部下が随分と気に入っているらしいと噂の女。……と、一晩を過ごした翌朝。ホテルの前での別れ際、面白い話を聞かせてくれた礼と称して念押しのチップを握らせてやると、ただでさえ上機嫌だった彼女は一際目を輝かせ、冒頭の言葉と共にキスをひとつ残し、鼻歌を歌いながら去って行った。

 ……あれだけ舞い上がっていれば、言い含めた通りにオレと、オレの家の噂もばら撒いてくれることだろう。全てはエイトランの腐敗の証拠を掴むため。そして、この腐りきった家を終わらせるため。この程度なら安いもんだ。

 作り笑いをほどき、彼女の唇が触れた部分を軽く拭って振り返る。そこには、今のオレが一番会いたくない男が、信じられないという顔でこちらを見つめ立ち尽くしていた。

「なっ、君、な、そっ……」

「げっ、リーブラム」

 無視すりゃいいのに、つい馬鹿正直に反応してしまった。リーブラム――オレがさっきあの女に渡した金の出所――は切れ長の目を大きく見開き整った顔を歪ませ、オレの方を指さしながらわなわなと震えている。

「あー、リーブラム。これは……」

「そんなことのために私から金を借りたのか!?」

 どうやら、金を渡した場面から見られていたらしい。この賑やかな男がよく声を上げずに見守ったもんだ。

 実際のところ彼女とは一晩“お話”をしただけで、こいつが想像しているようなことは何一つとして起こっていないのだが、言ったところで信じないだろう。言うつもりもないしな。それに借りた金を女に渡したのは事実だ。

 金の使い道がバレるのは構わない。知られるのは時間の問題だとわかっていたし、最初からそのつもりだった。……ただ、こいつにこんな現場を直接見せるつもりはなかったから。己の詰めの甘さに思わず舌打ちをする。とはいえ見られた以上は仕方がない。予定は少し狂ったが、今はこの場を切り抜けることができればそれでいい。気を取り直してあっけらかんと応える。

「あれ、言ってなかったっけ?」

「言ってないし聞いていない!!」

「ははは、ごめんごめん。……でさ、早速で悪いんだけど、もうちょっと貸してくれない?」

 朝のホテル街に不似合いなリーブラムのよく通る声が響き渡った。

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